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「建設工事従事者の安全及び健康の確保に関する基本的な計画」について

平成29年6月9日に「建設工事従事者の安全及び健康の確保に関する基本的な計画」が閣議決定されました。この計画は、今年の3月から施行された建設工事従事者の安全及び健康の確保の推進に関する法律に基づく計画です。

【厚生労働省】「建設工事従事者の安全及び健康の確保に関する基本的な計画」が策定されました

計画の概要

計画本文

計画は、1 現状と課題、2 基本方針、3 講ずべき施策、4 必要とされる事項の4つで構成されています。

1現状認識では、労災死亡事故が長期にわたって減少している現状を評価しつつも、一人親方等(一人親方、自営業主、家族従事者)を含めた従事者全体で年間約400名が亡くなっていることを指摘し、労働安全衛生法の対象とならない一人親方等への特段の配慮の必要性を指摘しています。
また、中長期的な担い手不足に備えるための対策が必要であるとしています。技能労働者の賃金が他の産業と比較して低廉であること、週休二日制の導入が不十分で労働時間が長くなっている点が指摘されています。

そこで、2基本的な方針として、適正な請負代金・工期の設定と、それによる従事者の処遇改善と地位の向上が挙げられています。さらに安全意識の一層の醸成と、設計・施工等の各段階における措置の重要性を指摘しています。

具体的な3講ずべき施策については、まず安全や健康確保に関する経費の明確な積算を求めています。そして安全や健康確保に配慮した工期の設定ができ、さらに工期の変更も可能となるような環境を整備するとしています。
また、建設現場では請負契約に基づき、当事者は各々の役割を担っていますので、その責任を明確にするために、立入検査を通じて、一括請負が行われていないか、専任の技術者が配置されているか等を確認するとしています。
さらに、一人親方等に関しては、建設現場一体となった安全管理を確保していくために、元請負人による統括安全衛生管理の徹底を図り、労働者だけでなく一人親方等の事故も把握・分析していくことが重要であるとしています。また、労災保険の特別加入を促していく必要性も指摘しています。
現場の安全性の点検に関し、労働安全衛生法上の義務的な措置にとどまらず、リスクアセスメント等を積極的に実施すること、施策の計画、実施、評価、改善といったマネジメントサイクルを構築することが重要であるとしています。また、ICTを用いた建機の活用や、設計段階での安全上の工夫をすることも促進させたいようです。
最後に取り上げられた施策は、作業者の安全健康に関する啓発活動です。不安全行動の防止に資する研修の実施、自主的取り組みを促す情報発信の重要性を指摘しています。

4必要とされる事項として、最初に取り上げられているのは、社会保険の加入です。実務家としての肌感覚では、近年はかなり加入手続きが進んでいるように思いますが、さらなる徹底が必要であるとしています。特に今年は平成24年に制定された「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」から5年が計画する節目の年です。行政機関の積極的な取り組みが予想されます。
さらに、建設労働者のキャリアアップシステムや、週休二日制の定着などの「働き方改革」に即した事項、墜落・転落災害防止への一層の取り組みなどが指摘されています。

最後に、最近起きた出来事に関することを述べたいと思います。オリンピック関連施設で発生した労働者の自殺が、過労自殺ではないかと報道されていることです。オリンピックの開催のために今後同様の問題が発生する恐れは十分にあると思います。この計画がどこまで効果を示すことができるのか、注視したいと思います。

過労死白書

過労死等防止対策推進法が平成26年に施行され、その第6条に基づいて作成されるのが、過労死白書です。今年度初めての白書が報告されましたので、概要を紹介したいと思います。

過労死等防止対策白書

白書の構成は、第1章 過労死等の現状、第2章 過労死等防止対策の制定、第3章 過労死等の防止のための対策に関する大綱の策定、第4章 過労死等の防止のための対策の実施状況の4つの章から構成されています。
すなわち、1現状、2法制定の経緯・法の概要、3大綱、4対策の実施状況によって記載されております。

1 現状
過労死等の現状(労働時間の状況、脳・心臓疾患や精神疾患の労災補償状況)と、労働・社会の状況(業種ごとの業務特性、生活時間等の労働以外の時間)に節を分けて説明されています。

労働時間については近年減少傾向が見られますが、これはパートタイム労働者の増加によるもので、一般労働者の労働時間は2000時間/年と高止まりのままだと指摘されています。
また、30・40代の労働者に長時間労働が多くみられること、年次有給休暇の取得率は平成12年以降5割を下回る水準で推移している状況が報告されています。
このような状況下で脳・心臓疾患による労災認定件数は、それまで100件前後であったところ、平成14年に300件を超え、その後も300件前後で推移していること、精神障害については平成24年以降は400-500件の間で推移しているとのことです。

業種ごとの労働時間の状況を見ると、平均的な1ヵ月の時間外労働時間が45時間を超えると回答した企業の割合は、運輸・郵便業、宿泊・飲食行、卸売・小売業の順に多いようです。
さらに、時間外労働時間が最も長かった月について、その時間が80時間を超えると回答した企業の割合は、情報通信業、学術研究、専門・技術サービス業、運輸・郵便業の順であったと報告されています。

2 過労死等防止対策推進法の概要
大綱の策定、過労死等防止対策(調査研究、啓発、相談体制整備、民間団体の活動支援の4つ)の実施、協議会の設置、調査研究等を踏まえた法制上の措置を行っていく旨の規定が盛り込まれた法律であることを紹介しています。

3 大綱
大綱には目標が記載されており、早期達成を目指すとしています。目標と達成期限は以下の通りです。

・将来的に過労死ゼロを目指す(期限なし)
・週労働時間60時間以上の雇用者割合を5%以下にする(平成32年まで)
・年次有給休暇取得率を70%以上にする(平成32年まで)
・メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上にする(平成29年まで)

4 対策
1調査研究
労災認定事案のケース分析、疫学研究、実験研究、社会調査の4つを実施するようです。
労災認定事案のケース分析のためにデータベースを構築し、そのデータを解析します。
疫学研究は、職域のコホート研究(特定の要因に暴露した群と、統制群の比較を長期間にわたって実施)、職場環境改善に向けた介入研究が予定されています。
実験研究では長時間労働等のリスク要因による循環器負担の影響を調べることにしています。

個人的には、実験研究の研究方法に興味があります。詳細を把握した際は、ブログでも紹介したいと思います。

2啓発
国民に向けた啓発、大学・高等学校における労働条件に関する啓発、キャンペーン期間(11月)中の重点監督等の実施等を実施します。

3相談窓口の整備
労働条件に関する相談窓口の設置(労働条件相談ほっとライン、相談実績3万件)、メンタルヘルス不調・過重労働による健康障害に関する相談窓口の設置(「こころの耳」メール相談実績6500件、「こころほっとライン」開設)、産業保健スタッフへの研修等の実施といった対策を行うとしています。

4民間団体への支援
過労死等防止対策推進シンポジウムの開催等を実施することとしています。

以上が過労死白書の内容です。国の目標として、週労働時間を60時間未満にすること、有給休暇の取得率を70%以上にすることが明記されており、それに沿った国の対応が進むことになると思います。企業としては、そのような経営環境が生じることを念頭に入れておいた方がよいでしょう。

平成27年度の熱中症による労働災害状況

厚生労働省より平成27年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」を公表しますが公表されました。

昨年度は建設業と警備業で、熱中症による労働災害が顕著だったようです。
東京地方の5月における夏日の日数は過去最多という報道があったように思います。これから本格的に暑くなりますので、今年も入念な対策が必要だと思います。

今年の熱中症対策として、厚生労働省では以下のような通達を発しています。

平成28年の職場における熱中症予防対策の重点的な実施について(H28.2.29付け基安発0229第1号)

必要な対策として、1)WBGT値の活用、2)労働衛生三管理(作業環境管理、作業管理、健康管理)に関する事項、3)労働安全衛生教育、4)救急措置に関しての内容が記載されています。

対策の具体的内容については、ポイントを簡単にまとめたリーフレットが公表されていますので、そちらを見て確認するとわかりやすいでしょう。

熱中症対策は、暑さ自体をコントロールできればよいのですが、屋外の作業であったり等でそれが難しいこともあると思います。作業環境管理による休憩所の整備、作業管理・健康管理や教育を充実させることで対処し、万が一の事態に備えて救急措置に関する事前準備も怠らないようにして頂きたいと思います。

【厚生労働省】治療と職業生活の両立について

【厚生労働省】治療と職業生活の両立について

平成28年2月に厚生労働省が「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」を発表しました。

このガイドラインでは、事業者の治療と職業生活の両立支援の意義を、労働者の健康確保のためと位置付けておりますが、それ以外にも次のような意義があると述べています(ガイドラインp2)。

1.人材の確保
2.安心感やモチベーションの向上による人材の定着・生産性の向上
3.健康経営の実現
4.多様な人材の活用による組織や事業の活性化
5.事業者の社会的責任の実現
6.労働者のワーク・ライフ・バランスの実現

また、ガイドラインの巻末には、医師との連絡をするための各種様式が付録として添付されています。

1.主治医に労働者の勤務内容を伝えるための様式
2.治療の状況や就業継続可否の意見を求めるための様式
3.職場復帰可否の意見を求めるための様式

そして、これらの医師の意見を参考にして、治療と勤務の両立計画や、職場復帰計画を作成するための様式も付録として添付されています。

これら付録の様式は、このブログの先頭に貼り付けたリンクに、Word形式のファイルとしてもアップされています。

主治医と職場では、必ずしも目指す目的が一致するとは限らないと思いますが、このような様式を活用して、できるところからコミュニケーションを図っていくことは有意義でしょう。
両者のコミュニケーションが促進されることで、患者(労働者)の利益に資する対策が充実すれば、労使双方にとって今回の施策には意義があったといえるのだと思います。

日本経団連/「健康経営」への取組状況

日本経団連が、「健康経営」に関して会員企業に行った調査結果が公表されています。今年の事業方針に「健康経営」の普及・啓発を挙げているようで、まずは現状を把握したということなのでしょうか。

以下にその概要と、私なりのコメントをしてみたいと思います。

1 健康経営に取り組む目的
調査結果の一番初めに、目的について尋ねた項目がありました。企業イメージの向上といった漠然とした目的よりも、業務効率・生産性向上や経営リスク(安全配慮義務違反、不法行為)の回避のような、直接的な目的を挙げている企業が多いようです。

生産性向上という点で気づいた点は、労働災害においては強度率などの労働災害による労働損失日数という概念があることです。それを私傷病にまで拡張した概念ということもできるのかな、、と感じました。労働者が健康障害で欠勤をすれば、稼働日数が少なくなり、生産性が高まらないという視点です。

2 健康経営の評価指標
高い順に、定期健診の受診率、総労働時間、定期健診の有所見率、労働者の健康状態の改善率となっています。

総労働時間を意識しているのは、1の経営リスクとの兼ね合いもあるのだろうなと思います。長時間労働によって健康障害が発生した場合、企業の責任が問われることが多いからです。
また、健康状態の改善率については、確かに評価指標になると言えますが、行き過ぎると問題が生じるかもしれないと感じました。例えば、肥満であれば昇格させないといったことに、繋がらないとは言い切れないのでは?と感じた次第です。

3 今後との課題
健康経営に取り組むうえでの課題としては、トップに労働者の関心、その後に取組推進体制・人員・予算・情報収集といった項目が続いています。

取組体制を整え、予算と人員を確保して、情報収集をしっかりしたうえで、労働者へ働きかけを行い、関心を高めてもらうということでしょうか。

以上、色々と感想を述べてきましたが、働く人たちが健康であれば、労使ともにメリットがあるという話は確かにその通りだと思います。
それを考えると、お互いが協力して進められるようになれば、一番よいのかなと思いました。
一人一人の健康が確保されることで、そこで働く人たちの幸福が少しでも高まればよいなあと感じだ次第です。